2013/05/03

No.85 KJ監督と少年の対話 その4




おっちゃんは、千本ポルノによるテクノブレイクで息絶えていた。


卒業の日を終えた僕は、あの世にいるおっちゃんと、テレパシーで会話した。

 



「おっちゃん、僕はあしたから、銀河系アヴァンギャルズという草野球チームに入団します」



――そのチームで、楽しく草野球ができそうか?


「それなりに、いろいろと工夫してるチームのようにみえます。そんなに強いチームじゃないけど」



――強いとか、勝つことばかりが楽しいわけじゃなかろう。工夫とか努力とか苦労の先に、楽しさがあるのじゃ。その過程を楽しめばいい。勝敗はあくまで結果じゃ。


「僕もそう思います。たとえば3-4で負ける試合と、10-0で勝つ試合とじゃ、3-4で負ける試合のほうが楽しいような気がします。もちろん悔しさはあるでしょうけど」



――それでよい。


「おっちゃんは、ぼくをプロ野球選手にしたかったみたいだけど、結局、草野球どまりで、ごめんなさい」



――草野球の何がいけないんじゃ。草、という言葉が、安っぽいだけじゃ。言葉のイメージだけで、思い込みをするのはいかん。立派な団体競技じゃ。現に世界大会もある。


「ぼくには難しい話だね。ぼんやりとしかわからないよ」



――ボーイ。それでよい。いまの世の中、具体的なものばかり求められ、抽象的、漠然としたものが軽んじられている感がある。大事なのはバランスなのじゃ。


「なんとなくわかったよ!」



――ボーイ、それでよい。細かいことにこだわるなよ。



 

そしてテレパシーが途絶えた。


涙を拭いた少年の目の前に、草野球という名の、果てしないフロンティアが広がっていた。



<<完>>




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