2013/04/29

No.84 KJ監督と少年の対話 その3





キャバ嬢の伊集院まどか(30歳。昼は派遣社員 関西出身)は、ひまな店内で、スマホの画面を眺めていた。



そしてこんなことを考えた。





意見は、できれば交換するもんであってほしい。


楽天とかAmazonのワンクリックは便利やけど、コミュニケーションのワンクリックは、するのもされるのも、苦手なんよ。


くだらない話とか、非公式なひそひそ話とか、何気無い日常をわかりあえるのが友達なんよ。昼めしこんなんだったとか、仕事おわって楽しく飲んでますとか、そんなんでええんよ。


なのに自分の画面に表示される同年代の友達の近況は、建前論とかビジネスとか人脈とかありがそうな教訓とかで溢れてて、見てて痛々しいんよ。



8割以上の友達とは、本当はお互いに関心ないんよ。




まどかは、そんなことを考えていた。



しとしと雨が降っている。他の店の子は、天気予報がはずれたのねと話している。

まどかは、気が立っていた。

「雨が降ったのは、天気予報のせいじゃなくて、天気のせいやろ。天気予報ばかにすんな。天気予報ほど当たるもんはないわ。あんたらの思い込みと比べたらね」



もうひとりの店の子が、あたしいつまでこの店で働くのかしらとつぶやいた。

「あんたを支配してるのはこの店やない。あんた自身や」



実家住まいの店の子(大学生のバイト)が、来月海外旅行に行くことを得意気に話している。

「旅行よりも引っ越しのほうが、よっぽど冒険や」



ヤンキー風の女の子が、これカレシ。族のヘッドなの。と写メをみせて自慢してくる。

「暴走族が、壁に落書きしてるうちが平和や。族がなくなれば、もっと陰湿な、ひどい犯罪が起きるような気がするわ」



留学資金を貯めるためにバイトしている子が、待機中に英会話の本を読んでいる。

「あんたそんなことより、あたしの日本語、ちゃんと理解してや」



昨夜、アフターで連れて行ってもらった高級店のグレードについて延々と話す子に、

「なにが楽しいんや。店の格なんて。あんたの品格はどこいったんや」



この服どう? いろんな雑誌で紹介されてて、この春、流行るのよ。

「あんたには感性というもんがないんか」



歳かしら。物忘れがはげしくなったみたい。アハハ。

「パスワードさえ覚えとけばええんちゃうか」



あたしって正直じゃん? だから、いろいろ損するんだよね。正直者が馬鹿をみるっていうね。

「それは正直とは関係あらへん。あんたが馬鹿なだけや」



最近、人間関係で悩んでて。

「どっちかが、まずいタイミングで地雷踏んだんやろ」



あたし、お酒は好きだけど、煙草は苦手なの。煙草の臭いって迷惑よね。

「酒だって場合によっちゃじゅうぶん迷惑や。酔っ払いが電車止めたり、車運転して事故起こしてるの、知っとる?」


今はひまだけど、お客様がきたら、気持ちを切り替えてお出迎えしようとマスターが言った。

「気持ち? そんなん切り替えてお客様に伝わるんか? マスターあんた、それをいうなら、態度を切り替えろ、や」



すまん伊集院、いまのは私の失言だ。忘れてくれ。

「忘れろと言われて忘れられる人間がいるかい。それは無理や」




そうして伊集院まどかは、また夜の仕事をクビになった。











2013/04/17

No.83 KJ監督と少年の対話 その2





その日から、僕とおっちゃんとの地獄の日々が始まった。


「ヒー・イズ・アウト! こう宣告されたものは蜘蛛の糸が切れるが如く、ダイヤモンドという天国からダッグアウトという地獄へと急降下し永遠に罪を贖うのだ」


「助けてママ! おっちゃん頭がおかしい」




「アウトになりたくなければ走ることだ。野球史上最も優れた走者は誰か知っているか? 激怒したメロスだ。おっちゃんは東北新幹線が新車両のネーミングを一般募集したときに迷わずハガキに"めろす"と書いて応募したが結局選ばれたのは"はやぶさ"だった。あのときは激しく落胆したよ」



「おっちゃんどいてよ! 学校に遅刻しちゃう」




そう言って僕は、まとわりつくおっちゃんを振りほどき家の外に出た。庭に無造作に置かれたホームベースの周りを、発泡酒の空き缶が魔法陣のように囲んでい




「なにこれ!?」



「ボーイ。この世は2つの世界に分けられる。天国と地獄? ノー。宇宙と地球、北半球と南半球、リアルとSNS、すべてノーだ。唯一この世を2つに分けるもの、それはストライクとボールだ。このホームベース上の、肩から膝までの立体空間のみが神聖視され、どんな犯罪やテロもこのストライクゾーンの中では無力だ。このゾーンの中で起こるデッドボールはストライクになる」




「おっちゃんいいかげんにしてよ! 僕そこまでして野球なんてやりたくないよ」



「ボーイ……YO BOY……君には素質がある。それともあれかい? 何者かになりたいという願望を持ち続けることで、何者かになれるというのかい?」


「おっちゃん……僕はまだ小学生だよ」
  

「小学生だからって、アイ・デン・ティ・ティが無いってのかい? アイ・デン・ティ・ティが? そんな時はヌンチャクのアルバム『ヌンチャクラ』の1曲目「めおとチック」を聞いて安息するがいい。ボーイ、君は何者になりたいんだ?」




「だから僕は、ピッチャーになりたいんだ」



「そういうわけにはいかない。この4つの中から選択しなさい。その1はクリネックススタジアムの便所に常備されているクリネックスティシュー、その2は花京院に咲く花、その3はコートダジュールを歌う松崎しげる、その4は神だ」




「じゃあ神でいいよ」




「それでは君を、品川区南埠頭公園野球場のナイター照明設備を司る神に任命しよう」



「むちゃくちゃだ」





僕はいつのまにか、おっちゃんのペースに引きずり込まれていた。学校を休み、千本ノック、千本ティーバッティング。中でも最もハード・トレーニングだったのは千本ポルノだ。




「おっちゃん、ポルノビデオなんて退屈だよ。僕まだ小学生なのに」



「確かにポルノビデオは退屈だ。しかし、優れた名選手たちはみなこうやって千本ポルノという猛練習に耐え抜き、選手として開花したんだよ。よし、明日からは洋モノじゃなくて日活ロマンポルノにしよう」






やがて僕は、卒業の日を迎えた





(つづく)



 


2013/04/16

No.82 KJ監督と少年の対話 その1



彼はタカミネ社のガットギターを片手に歌い始めた。



そんな時代も あったねと
いつか話せる 日がくるわ
あんな時代も あったねと
きっと笑って 話せるわ
だから今日は くよくよしないで
今日の風に 吹かれましょう
まわるまわるよ 時代は回る
喜び悲しみ くり返し
今日は別れた 恋人たちも
生まれ変わって めぐり逢うよ



ヴャチェスラフ少年は無反応で立ち尽くしていた。


「僕が悪かった」 彼はヴャチェスラフ少年に平謝りした。


ヴャチェスラフ少年は唐突にこう言った。


「おっちゃん野球おしえてよ」


彼はふん、と言いながら

「野球でいちばん偉いのは誰か知ってるか? 少なくとも、監督でも観客でもピッチャーでも4番でもないことはあらかじめ伝えておくが」



「じゃあ誰なの?」

「文句なしでキャッチャーが偉いんだ」



ヴャチェスラフ少年は意外な顔をした。「どうして? ピッチャーじゃないの? 4番じゃないの?」

「ピッチャーも4番もライパチも同格さ。キャッチャーだけが突き抜けて偉いんだ。もっと人生経験を積めば、きっとこの意味がわかるさボーイ」



「おっちゃん、僕やっぱピッチャーになりたい。カーブの投げ方を教えてください」

ヴャチェスラフ少年の口調がすこし謙虚になった。

「カーブの現象を起こすのは空気抵抗さ。ピッチャーの仕事じゃない。ピッチャーはそのきっかけを与えるだけだ。勘違いするなよボーイ」



「桑田とかダルビッシュみたいなカーブを投げたい」

「あいつらは空気を読むのが上手かっただけさ。だからカーブも曲がった。その証拠に、いいタイミングで日本野球に見切りをつけただろう。野球は人生さボーイ」



「スイッチヒッターってかっこいいね」

「左投手だから右打席、右投手だから左打席。そんな型にはまったつまらないスイッチヒッターになるなよボーイ。はじめからそんなつまらん固定観念に走る奴は、江川な人にでもなるがいい」



「草野球にバントは必要なの?」

「いい質問だボーイ。だが、その質問は僕の専門外だ。思い込みと過去への固執が、僕の判断を狂わせ、間違ったことを言うかもしれない。だから正確な答えは統計学者に聞きなさい。統計学者はすべて数値で論理的に説明してくれる。そしておそらくボーイの質問に対して、バントなんて無意味と答えるだろうさ。マネーボールの小説を読んだかい?既にその本の中に書かれているよ」



「でも部活ではバントの練習をしてるよ」

「ボーイ……HEY BOY。だから野球は人生だと言ったろう。部活でバントさせるのは当然さ。それが教育だからだよ。自己犠牲の精神を育むんだよ。バントの本質的な目的はそこにある。得点圏に走者を進めることが目的? そんなことは結果論だ。建前論だ。そんな大人の理屈に惑わされちゃいけないよボーイ。大人は自分の優位性を守ることが仕事なんだ。かわいそうな人達なんだよ。だからボーイは、かわいそうな子犬を見るように、同情しながら大人の話を聞きなさい。そして素朴な疑問を突きつけて、彼らの優位性を崩してあげなさい。それが子供の使命さ。話を戻そう。実際、確実にゴロを打てる技術を持っているチームからすれば、バントなんて勝ち負けには全く影響ない。ゲッツーがほとんどない草野球なら、なおさらそうさ。じゃあなぜバントをするのかって? それはあれだよボーイ。自己犠牲の精神を示してチームの士気を高めること。それこそがバントの目的だ。滅びの美学って知ってるかい? 白虎隊や新撰組や神風特攻隊が、いまだに人々の心を動かしてやまないように、犠牲になることは美しいことなんだ。一方、犠牲の上に名声を得ようとすることは醜い。デイトレードやFXのように、大多数の人の犠牲の上に成り立っているビジネスが、人の心を動かすことは決してないんだ。でもバントは人の心を動かす。だから僕は、バント賛成派さ」



「自己犠牲……おっちゃん、野球って深いね」



「野球が深いんじゃない。草野球が深いんだ」



「そうなのかなあ」



「少年野球の指導者は、僕と同じことを考えてるかもね」



「おっちゃん、めんどくさいね」



「そうか? まあたしかに、世の中、確率で片付けてしまいたいと思うことが、よくあるよ。でもそれもまた、つまらんしなあ……。ただひとつ、いえることは……」


「なに?」



彼はタカミネ社のガットギターを持ち直した。



Cそんな時E7代も あFったねCと
AmいつかEm話せる 日Dm7がくD7るG7わ
Cあんな時E7代も あFったねCと
AmきっとEm笑って Dm7話せD7るG7わ
AmだからEm今日は くFよくよしなFmいで
C今日のAm風に 吹FかG7れましょCう
まわCるまわるよ 時Am代は回る
F喜び悲しみ くりG7返し
今日Emは別Amれた Dm恋人たFmちも
Em生まれAm変わっDmて めG7ぐりC逢うよ









2013/04/15

No.81 公式戦開幕!銀アとCarry On

銀河系アヴァンギャルズが、4月14日、朝8時から多摩川ガス橋緑地グラウンドにて行われた関東草野球リーグ初戦のムービーを配信開始した。





2013/04/12

No.80 公式戦開幕 初戦は自分との戦い



 今週末04/14(日)、銀河系アヴァンギャルズが遂に公式戦『関東草野球リーグ』の初戦を迎える。

首都圏約800チームが参加するこの大会は、階級別・地域別に約半年間のグループリーグ戦が行われ、各グループの優勝チームが決勝トーナメントに進み、さらに優勝決定戦は夢のドーム球場で行われる(昨年は西武ドーム)。

昨年、リーグ戦を突破したものの惜しくも決勝トーナメントで涙をのんだ銀アは、今年は階級を1つ上げ、「死のグループ」との呼び声高い京浜地区11チームの中から1位突破を目指す。



初戦のハードルは何と言っても「朝8時開始」という試合時間の早さだ。開始時刻までに9人揃わないと失格となるため、夜型人間が多い銀アにはかつてない早起きの工夫が求められる。

既に各選手は「アラームを3重にかける」「あえて寝ない」「グラウンドに野宿する」「脳にマイクロチップを埋め込んで人工衛星に起こしてもらう」など、それぞれに対策を練っているようだ。

また、全選手からモーニングコールを頼まれているマネージャーのトモコが、重圧のあまり複数の大手コールセンター会社に見積を依頼したことも明らかになった。

いずれにしても、当日は好結果を期待したい。


--- 関東草野球リーグ第1節 vs Raiders(品川区) ---
時間:04/14(日)AM8:00 試合開始
場所:多摩川ガス橋緑地野球場(大田区下丸子)
試合終了後、CDシングル『君はパチョレック』の発売記念サイン会を行います。






2013/04/10

No.79 今季5作目のPV配信開始



合言葉は勇気・友情・闘志(コロコロコミックより)の銀河系アヴァンギャルズが、今季5作目のプロモーションビデオをリリースした。

恐れ多くもBGMにCKB×RHYMESTER「肉体関係Part.2」をフィーチャーし、いたって真面目にプレーしている選手たちを、なんだか卑猥な印象に仕立て上げている。






2013/04/09

No.78 銀ア総研レポート4月号




銀河系アヴァンギャルズに関わるすべてのデータ収集分析、戦略立案、下の世話などをトータルで支援する銀ア総合研究所(川崎市溝の口ドンキホーテ向かい)が、今季オープン戦を2勝3敗2分で終えた銀アを総括した。





事前に対戦相手を綿密に吟味し、緊迫した試合を積み重ねた銀アは、酒席での野球談議が尽きることがなく3月期は過去最高のエンゲル係数を更新。カード決済した一部選手の楽天ポイントが劇的に増えた。

この事実について銀ア総研のK嶋チーフエコノミストは神妙な顔で「典型的なブラック草野球チーム」との見解を示した。


打者部門は昨日の横浜ブルーハーツ戦で固め打ちを見せたKOICHI選手と、町田の暴れ横丁・豊島が一気に打率を上げワンツーフィニッシュを決めた。
出塁率においても好結果を出しているこの2人に加え、RYO選手(本塁打王)と、今季新加入のTAKAYUKI選手(打点王・最多安打)を含めた4名が、銀アの打撃をけん引する形となった。今季は昨年よりハイレベルな戦いが増えることは必至であり、つなぎの意識を数値化した「出塁率」が重視されていくだろう。

また、どんな凡打であろうと必ず1塁まで全力疾走するHASE選手、足の回転の割に全然前に進まない空中走法が持ち味のKJ監督の2名が、走塁面で結果を残している点も興味深い。


投手部門は、若き本格派右腕のHIKARU選手と、主に救援で炎上後のマウンドに立ったKOICHI選手が順当に結果を残し、今季開幕投手のYASUHIRO主将が芸術的にフェードアウトしている。


一冬越えた銀アが、見事にレベルの底上げに成功した。



2013/04/03

No.77 公式戦直前 KJ監督の決意


2013年「弘前さくらまつり」ポスター




---☆★☆



私はひとり、夜桜見物に来ている。






ソメイヨシノ、天守閣、そして橋の朱が間接照明に交わり幻想を極めている中、

砂利道をさらに歩くと、軒を連ねた露店群が見える。






ジャンボこんにゃく、りんご飴、天津甘栗……

どの店の前にも人ごみができており、10年、20年と使われてきたであろう色とりどりの看板が、私の中のノスタルジーを呼び覚ます。








――そうだ、あの中華そば屋に久々に行ってみよう。




そば屋の親父とは昔からの顔なじみだ。


露店群から少し離れた、祭り期間だというのに人通りの少ない場所に、

その店はあいかわらずひっそりと構えていた。

5年振りか。この店も変わらねえな。

そんな感慨にふけりながら、暖簾を潜り抜けた。



とっさに目が眩んだ。

いや、目が眩んでいるのではない。

景色が真っ白なだけだ。



何なんだここは。

確かに暖簾は潜り抜けた。


真っ白だった景色が、だんだんと鮮明になっていく――







そこはドーム球場だった。



私は打席に立ち、相手投手と正対している。

投手がボールを投げる。

ボールが手元で変化する。

夢中で喰らいつく。


打球が、センター前に――



抜けた!抜けたあああああ!!!!!!!



---☆★☆



やがて景色が、中華そば屋に変わった。

目の前にはあのころと変わらない、ボロい中華そば屋のカウンターがある。

あれ……?

なぜか股間が濡れていた。



そば屋の親父は、客がいないことをいいことに、厨房の隅で50代とおぼしき厚化粧の肉感的な女を犯している。

女は恍惚の表情を浮かべている。


ついさっきまで幻と現実の狭間を彷徨っていた私は、ふらふらとカウンターに座った。

椅子を引いたらガタッと音がして、親父はビクッとしてこちらを振り向いた。



「なんだ、お前か」

そして、また元の体制に戻り女を犯し始めた。


「親父ィ、あのさ」

親父は一心不乱に女を犯している。私は構わず話を続けた。

「俺、いまドーム行ってきたよ」



親父の動きが止まった。

女は既に果てている。

しばらくしてゆっくりと振り向いた親父の目が、心なしか潤んでいた。

店内には、新沼謙治の津軽恋女が流れている。


こな雪 つぶ雪 わた雪 ざらめ雪

みず雪 かた雪


そして春待つ氷雪が降ったころ、親父が重い口を開いた。


「アメリカに行ったのか」

親父にとってドーム球場は、アメリカと同じくらい憧れの場所だった。



「たったいま暖簾を潜り抜けたと思ったら、そこはドーム球場で、俺は打席に立っていたんだ」

私は自分に起こったことをありのままに話した。


「……幻を見たのか」

「ああ」



昔からこの店の暖簾を潜ると、不思議なことが起こった。


渋谷で黒服に取り囲まれたり、ボール投げたら骨折したり、クラブで別室に連れて行かれて勘定払えといわれたり。


そしてそこで見た幻のすべてが実際に起こった。


そう、ここは地図に無い場所。時空の狭間に建つラーメン屋。


さっき見た幻は、めずらしく悪くはなかった。



親父は全てを察したのか、厨房の奥から何やら巻き物を取り出し、私に差し出した。

「俺の果たせなかった夢を、お前に託す」

「親父……?」

その意外な言葉に、私の胸は熱くなった。

私はその巻き物を受け取り、目の前に広げた。そこには力強く、こう書かれていた。




勇気・友情・闘志




「コロコロコミックじゃねーか……」

私は、軽蔑を込めた視線を親父に向けた。

親父は再び私に背中を向け、「デヤー」と叫びながら再び女を犯し、ファイナルファイトモードに入った。


まあいい。



去年の10月28日、約半年間続いたリーグ戦を勝ち抜いてプレーオフに進んだ私達は、埼玉地区代表のチームに5-3であっけなく負けてシーズンを終えた。


いけるいける、まだチャンスあるよ。
相手のピッチャーぜったいバテるから。


そんなことを言っている間に、ズルズルと試合は進み、結局負けた。

ドーム球場で行われる決勝戦進出まで、あと2勝だった。


試合後、選手達は口々に

「来年こそは勝ちたい」
「もっと守備がうまくなりたい」
「悔しい」

「監督、来年もこの大会出よう」


私は返答を濁した。

疲れていた。頭を冷やしたかった。


ゆっくり考えて、年が明けて、

結局今年も、同じこの大会に出ようと決意した。



1点だけ気がかりな点がある。



みんなの気持ちは、あの時の、

去年の10月28日のままだろうか。

時間とともに色褪せていないだろうか。



感極まった親父が叫んでいる。

「ニューヨークヘイキタイカ!」

女は吐息交じりの声を出しながら、遠くを見つめている。



親父は若いな。

そう思ったとき、はっとした。




熱くなったっていいじゃないか。




私はカウンターを立ち、コップに入った水を一気に飲み干して、


「ああ、行きたいさ」 

絡み合う熟れた身体にそう告げて、店を後にした。



さて、りんご飴でも買って帰るか。


私はひんやりとした夜風に吹かれながら、夢のアメリカへと続く砂利道を歩き始めた。